建物倒壊はなぜ起こる?3つの脅威「共振現象・強い揺れ・繰り返し」
地震の大きな被害のひとつに建物倒壊があります。
過去の大規模地震では建物倒壊による圧死が死亡原因の大半を占めていたり、重症を負われた方が多数みられました。
こうした被害を減らすためにも、また、その場から逃げる時間を確保するためにも、建物の地震対策がとても大切です。
地震による建物倒壊は「強い揺れ」「繰り返し」「共振現象」の3つが原因となり起こると言われています。
そこで今回のコラムではこうした建物倒壊のメカニズムをご説明するとともに、それに合わせた対策についてご紹介します。
・地震による建物倒壊がどの様にして起きるのかメアニズムを知ることができます。
・建物倒壊のメカニズムを意識した住宅の地震対策がわかります。
目次
建物倒壊の3つの脅威は「強い揺れ・繰り返し・共振現象」
冒頭でもお伝えしたように、建物倒壊の大きな原因は「強い揺れ・繰り返し・共振現象」の3つといわれています。
これらはどのように建物に脅威を与えるのかについてそれぞれご説明していきます。
強い揺れ
強い揺れは、建物倒壊を招く一番の原因といわれています。
強い揺れによって建物の構造耐力上主要な部分(基礎、壁、柱、土台、筋交いなどの斜材、梁、床版、屋根版など)が崩れ、建物が更に揺れやすくなり建物倒壊へとつながります。
当然ですが建物の揺れが大きければ大きいほど、建物の構造耐力上主要な部分へ加わるダメージも大きくなります。
繰り返し
建物倒壊は強い揺れの時にだけ起きるものではありません。
強い揺れや弱い揺れのどちらであっても、地震の揺れによって建物に加わったダメージはその建物内に次第に蓄積されていきます。
たとえば日常的に小さな地震が何度か起きると小さなダメージが蓄積されて、徐々に建物が弱くなっていきます。
また、大きな地震の後に余震が続くことがありますが、大きな地震によって損傷した状態の建物に余震が繰り返し起こることでその度に建物が弱くなり、さらに揺れの影響を受けやすくなります。
このように揺れの大小・強弱に関わらず、繰り返し地震の揺れを受けてダメージが蓄積されるごとに建物自体がだんだん弱体化し、建物倒壊につながってしまいます。
共振現象
共振現象とは、「地震の揺れの周期」と「建物の固有周期」が一致することによって建物の揺れが増幅される現象のことです。
共振現象によって建物の揺れが大きくなり、建物倒壊を引き起こします。
地震から感じる揺れが1往復するのにかかる時間を「周期」といい、建物が1回揺れる時間を「固定周期」と呼びます。
地震の周期は
- 極短周期地震動
- 短周期地震動
- 稍(やや)短周期地震動
- 稍(やや)長周期地震動
- 長周期地震動
- 超長周期地震動
の6つに区分されています。
また、建物の固定周期は
- 建物の高さ
- 建物の重さ
- 建物の固さ
などによって個々に決まっています。
地震の揺れと建物の揺れのそれぞれの周期がぴったりと合致してしまうことで、建物がより大きく揺れてしまう共振現象となります。
共振現象では、地震の周期の長短によって影響を受けやすい建物が変わります。
長周期地震動(地震の揺れの周期が長い)の場合、マンションや高層ビルなど比較的高さの高い建物で揺れが増幅します。
一方、短周期地震動(地震の揺れの周期が短い)の場合、戸建て住宅など比較的高さの低い建物で揺れが増幅します。
一般的に周期が2秒以下の揺れの場合を「短周期地震動」と呼びますが、その中でも周期が約1~2秒の「やや短周期地震動」に分類されるものは「キラーパルス」とも呼ばれており、戸建て住宅や木造住宅などの比較的高さの低い建物に大きな被害を及ぼします。
建物倒壊の被害が著しかった兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)や新潟県中越地震でも「やや短周期地震動(キラーパルス)」が観測されています。
メカニズムに合わせた地震対策とは
日本の建物への地震対策は「耐震・制震・免震」の3つの技術が基本となっており、それぞれ特徴やメリット・デメリットがあります。
これらの技術を用いることで、建物倒壊の原因への対策を講じることができます。
耐震とは
耐震とは、「建物自体の強度を高めることで、地震による建物の崩壊や損傷を防ぐ技術」のことです。
耐力壁を増やす、柱や梁を太くする、筋交いを入れるなど部材の強度や数量を上げて頑丈な建物にすることで建物の耐震性を高め、地震の揺れに耐えられるようにします。
耐震は日本の地震対策の基本であり、建築基準法でも耐震基準として建物の耐震性に関する基準が設けられています。
したがって一般的な戸建て住宅はもちろん、高層ビルや古い建物の耐震化工事にまで幅広く採用されています。
耐震の特徴として、
- 比較的コストが安い
- 現在最もポピュラーな工法である
- 実績により効果がわかっている
- 台風などによる強風にも耐えられる
- 地盤や土地の条件をほとんど選ばない
- 間取りの制約がほぼない
- 既存住宅でも耐震化が可能
といったメリットが挙げられます。
反対にデメリットとして、
- 余震や繰り返しの揺れに対応できないため建物にダメージが蓄積する
- 地震の揺れが建物にダイレクトに伝わってしまう
- 上の階になればなるほど、揺れが大きくなる
- 建物内部にある家具などの転倒や損傷には効果を発揮しない
といった点があります。
制震とは
制震とは「建物に制震装置(制震ダンパー)を設置し、地震の揺れを吸収して抑制する技術」のことです。
制震ダンパーにはオイル、ゴム、鉄鋼などの種類があり、それぞれ設置箇所や設置方法等が異なります。
こちらも一般的な戸建て住宅から高層ビルまで幅広く採用されており、最近では「恵比寿ガーデンプレイス」の耐震リニューアルに採用されたことが話題となりました。
制震の特徴として、
- 余震など繰り返しの揺れにも効果を発揮する
- 建物に伝わる地震の揺れが小さい
- 建物内部にある家具などの転倒や損傷をある程度小さくすることができる
- 地震後のメンテナンスがほとんど不要である
- 免震と比較してコストが安い
- 台風などの強風にも効果を発揮する
- 間取りの制約がほぼない
- 制震装置(制震ダンパー)によっては既存住宅にも設置が可能
といったメリットが挙げられます。
反対にデメリットとして
- 建物内部にいた場合、地震の揺れは感じる
- 耐震工法に比べて、若干コストが高い
- 地盤が軟弱な場合は設置できないことがある
といった点があります。
免震とは
免震とは「建物と地盤の間に免震装置を設置し、地震の揺れを建物に伝えないようにする技術」のことで、耐震・制震・免震の中では最も揺れの伝達を防ぐことができる技術でもあります。
一般の戸建て住宅でも一部取り入れられていますが、基本的にタワーマンションなどの高層マンションや公共施設などの大規模な建築物、鉄道の高架下建築物などに取り入れられる場合が多いです。
免震の特徴として、
- 横方向の揺れに強く、地震が起きても建物がほとんど揺れない
- 建物内部にある家具や内装の損傷を防ぐことができる
- 比較的大規模な地震にも対応している
といったメリットが挙げられます。
反対にデメリットとして
- 建物と地面が絶縁されているため、縦方向の地震に弱い
- 免震装置の定期的なメンテナンスが必要
- 耐震・制震と比較して最もコストが高い
- 台風などの強風による揺れには弱い
- 地免震装置の揺れ幅分、建物の周囲を空けておく必要がある
- 免震装置の耐用年数の実績が少ない
- 施工できる業者が少ない
- 後付けは難しく大きな費用がかかる
といった点があります。
戸建て住宅の「強い揺れ・繰り返し・共振現象」対策
これら「耐震・制震・免震」の地震対策3本柱ですが、建物倒壊の原因となる「強い揺れ・繰り返し・共振現象」への対策としてそれぞれに効果を発揮します。
「強い揺れ」
一般的な戸建住宅の場合、耐震と制震を組み合わせて取り入れることで、建物倒壊リスクをより低減することができます。
まず耐震によって建物を頑丈にし耐震性を高めることで、強い揺れにも耐えられる対策ができます。
建築基準法では耐震基準が設けられており、現行の耐震基準では
- 中規模の地震(震度5強程度):家屋や建物が倒壊せず、破損しても補修すれば居住可能である
- 大規模の地震(震度6強から震度7程度)家屋や建物が倒壊・崩壊しない
と定められているため、最低でも上記の耐震性が確保されています。
さらに制震の技術を取り入れて大きな揺れのエネルギーを吸収することで、建物の揺れをより低減することができます。
「繰り返し」の揺れ
繰り返しの揺れは、特に大規模地震後の余震時に建物倒壊を引き起こす原因となります。
先述の耐震のデメリットにもあるように、「繰り返し」の揺れには耐震だけでは対応しきれません。
そこで制震の技術が活きてきます。
耐震化された住宅へ制振装置(制震ダンパー)を設置することで、高い耐震性+繰り返しの揺れにも強い家にすることが可能です。
「共振現象」
耐震と制震は共振現象へも効果を発揮します。
現行の耐震基準では、共振現象が起きても建物が崩壊や倒壊しないような設計強度が定められています。
そして制震装置の中でも特に油圧式のオイルダンパーは、共振現象に効果を発揮するといわれています。
免震は3本柱の中で最も揺れの伝達を防ぐことができる技術で、強い揺れや繰り返し、そして共振現象にも効果的ですが、現時点では一般的な戸建住宅へ免震を取り入れる場合、技術面やコスト面でハードルが高くなっています。
そのため免震は、マンションや高層ビルなどの長周期地震動の影響をうけやすい高さの高い建物で、耐震や制震と組み合わせて主に取り入れられています。
まとめ
耐震性が高い場合でも、繰り返し地震を受けたり共振現象が起きてしまうと、建物倒壊の危険度が増してしまいます。
繰り返しになりますが、建物倒壊は地震被害の中でも重大な内容につながりやすい被害です。
建物が倒壊するメカニズムと地震対策の特徴を理解し、それぞれに合った対策を講じておくことで被害を最小限に抑えることができるのではないでしょうか。
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南海トラフ巨大地震や首都直下型地震など今後の発生が確実視されている大規模地震も数多くある今、私たちは自分自身や家族を守るために、財産を守るために、建物の地震対策への知識を常にアップグレードする必要があるといえます。
日本の素晴らしい技術力によって、これからの住宅は「耐震」だけでなく「耐震+制震」の時代になるのではないでしょうか。
耐震で建物を強く、そして制震で余震などの繰り返される地震にも強くし、より安全で安心な住まいを手に入れましょう。
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